ビジネスを勝ち抜く上で欠かすことができないのがマーケティング戦略。中でも昨今注目を浴びているのが「ランチェスター戦略」です。ランチェスターの法則、ランチェスター戦略の名前を耳にして、気になっている…という会社経営者の方、マーケティング担当の方も多いのではないでしょうか。
ここではランチェスター戦略についての基礎的な理論、そしてその戦略を実践的にどのように取り入れていくべきなのかを、マーケティング初心者にもわかりやすく説明していきます。
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ランチェスターの法則・ランチェスター戦略とは
ランチェスターの法則とは、フレデリック・W・ランチェスター氏によって提唱された軍事に関する科学的な法則です。第一次世界大戦時に考案されたこの法則は、従来とは異なる「近代兵器を使用した戦争」における重要な戦略の基礎となる考え方として一躍注目を浴びました。
さてマーケティングの話のはずがいきなり「軍事」の話題が出てきて、面食らった人も居るかもしれませんね。しかし軍事とビジネスは、実は密接な関係にあります。「数値によって勝負がつく」等、両者には共通点がいくつもあるのです。
現代ではこの「ランチェスターの法則」を基としたビジネス向けの戦略「ランチェスター戦略」が確立し、世界で広く利用される経営戦略のひとつとなっています。特に中小企業や中小規模の店舗の経営者に取って、ランチェスター戦略は知っておいてソンの無い戦略の考え方と言えるでしょう。
・経営の世界で「弱者」となりやすい中小企業はどのように戦えばよいのか?
・強者たりうる企業はどのような戦い方を仕掛けてくるのか?
ビジネスで勝ち抜くために知っておきたいこれらの方針を、ランチェスター戦略はシンプルに私達に教えてくれるのです。
ランチェスターの法則を知ろう
それでは実際に、ランチェスターの法則がどのようなものなのかを見てみましょう。ランチェスターの法則には「第一法則」の「第二法則」の2つがあります。
第一法則は「一騎打ちの法則」
戦闘攻撃力 = 兵力数(量)× 武器性能・効率(質)
ランチェスターの第一法則では、武器性能・武器効率が同じである場合、両者の攻撃力は「兵が多い方が上」であるとしています。例えば平地でまったく同じ槍を持った両軍が睨み合っていると考えてみましょう。
B軍: 兵力数50人 × 武器性能・効率10= 攻撃力500
この状態では、攻撃力はA軍の方が大きいということになります。しかしこの戦いが狭い山林であり、A軍の武器は長い槍、B軍が戦いに適した武器として、B軍が「刀」を構えたとしたらどうでしょう。槍は山林の中ではぶつかってしまうため、性能を発揮できません。対して刀は、武器性能・効率が上がるため攻撃力が上昇します。
B軍: 兵力数50人 × 武器性能20= 攻撃力1000
つまり「兵力数が少ないからといって、必ずしも負けるとは限らない」というわけですね。ただしこの法則は、戦闘範囲が狭い範囲向けの武器を使った場合の話です。最初に槍や刀等を使って、さらに1対1で戦った場合にのみ適用されます。そのためこの法則は「一騎打ちの法則」「一期打線の法則」といった呼ばれ方をしています。
さらにこの法則を適用させるにあたって、非常に重要な条件がひとつあります。兵力が少ない側は、大量の兵に囲まれることのないような戦場を選ばなくてはなりません。見晴らしの良い開けた土地等は兵数の少ない方に不利です。兵力数が少ない方が「包囲」をされてしまい、一気に潰される可能性が高まります。
第二法則は「集中効果の法則」
第一の法則がシンプルな戦い方であったのに対し、第二の法則ではより近代的な戦い方が想定されます。ライフルやマシンガン、戦闘機等をイメージした方がわかりやすいでしょう。より広い範囲での戦いに即したものであることから、「集中効果の法則」や「間隔戦・確率戦の法則」といった呼ばれ方をすることもあります。
戦闘攻撃力 = 兵力数(量)の二乗×武器性能・効率(質)
先程と同じように、A軍とB軍の戦いで考えてみましょう。両者の軍の武器性能・効率が同等であった場合で考えます。
B軍:兵力数50人 50×50で戦闘攻撃力は2,500
さあ、兵力数による戦闘攻撃力の差がずいぶん開いたことがわかると思います。確率線では訴状効果を上げるため、兵力数が二乗になる作用を示します。つまり「兵力が多いA軍の方が圧倒的に有利」となるわけです。
兵力が少ないB軍は、第二の法則が適用する戦いではほぼ勝つことができないでしょう。なお第二の法則は、「射程距離が長い兵器を使う」ということ、そして両軍が離れて戦う場合のみに成立します。
ランチェスター戦略が教える「弱者が強者に勝つ方法」
ランチェスター戦略の第一法則・第二法則を見たことで、私達にはいくつかの手がかりが与えられました。兵数の少ない弱者、つまり中小企業はどのように戦えば良いかというコツです。あなたにはいくつのヒントが見えたでしょうか?
接近戦・ゲリラ戦に持ち込めるフィールドを選ぶ
戦いに勝つ上で、まずしっかりと考えたいのが「どこで戦うのか?」という点です。上記で解説したとおり、ランチェスター法則・第二の法則が適う場所で戦闘を始めれば、兵力数の少ない方に勝ち目はありません。
では兵力数が少ない側、つまり弱者が勝つにはどうするか?武器効率を高めれば勝ち目がある「第一法則」が適用される場にまで戦闘地を持ってくる必要があります。例えば屋内が戦闘フィールドであれば、「一騎打ち」にも持ち込みやすくなりますね。
奇襲やゲリラ戦等も、弱者にとっては有効な手段となります。兵士が一人で複数の相手を攻撃できないようなフィールドを選べば、兵力数が少ない方でも勝ち目はあります。そして物量で包囲されるようなフィールドは絶対に避けること。 軍事の歴史をたどれば、うまくフィールドを選んだ場合、6,000人の兵士に対してわずか200人の軍が勝利を得たケースも見られます。
武器効率・武器性能を最大限に高める
「どこで戦うか」を選んだら、次に考えるべきは「何を使って戦うか」です。いくら自分たちに有利なフィールドを選んだとしても、兵力数で負けていればまだまだ不利な状況なのは変わりません。
1:5、1:10、1:100…物量によって開いている兵力比率を「1:1」、またはそれ以上に持っていくためには、武器効率をできるだけ高める必要があります。ただし「強力な武器」をひたすら選べば良いというものではありません。その戦地に適した武器であることは必須。そしてもちろん、遠距離攻撃の方に適した武器を選ぶのもNGです。ライフルや大砲を選べば、戦い方はどうしても遠距離戦になります。「第二の法則」適用されてしまいますから、少数軍には大打撃です。
また「兵士の練度を高める」ということも、特に少数軍によっては大きな勝利要素となりえます。数が少ないからこそ、各自の戦闘力を上げることが全体的な戦闘力強化につながるのです。
兵力を集中させる
戦いとは、ひとつの場だけで行うものではありません。山の頂上近くで、裾野で、川のそばで…様々な場所で、並行するように局地的な戦いが行われています。兵数が多い場合、それぞれの場に対して兵力を分散させる兵法も有効となるでしょう。しかし兵数が少ない時には、このような戦法は避けねばなりません。
ランチェスターの第一の法則においても、「兵力の差」は戦闘力を決める大きな要素となります。つまりその場において局所優勢となるように兵力を集中させれば、「局地的な勝利」は得やすくなるわけです。勝利を得ればそれだけ相手の兵を倒し、兵力を削ぐことにも繋がります。
満遍なく勝とうとするのではなく、「局所勝利」「局所優勢」を目指すこと。これもまた、少数軍の長が必ず知っておくべき鉄則と言えます。
ランチェスター戦略をマーケティングで実践する4つのヒント
上記のようなランチェスター戦略を、中小企業では実際のマーケティングでどのように活かしていけばよいのでしょうか。最後にその4つのヒントを解説します。
1.大手企業のマネを止めよう
大手企業の経営戦略は、ランチェスターの法則でいうところの「第二法則」に則ったものです。できるだけ広いフィールドで、兵力数を惜しみなく注ぎ込んで物量で圧倒しつつ、シェアナンバーワンを獲得した分野に対しては死守する体制を取っています。
これらはいずれも、膨大な資金と人材にモノを言わせる「強者の法則」です。大手の戦略や法則をいくらマネしても、中小企業には残念ながら勝ち目はありません。「流行り物」の後追いがNGというのもこれと同じです。大手広告代理店が既に行っているマーケティングと同じ方法を取っても、小規模企業に入り込む隙間はありません。
2.ニッチな市場に絞込もう
中小企業が勝てるフィールドは「小さな市場」「ニッチな市場」です。市場を思い切って限定してみましょう。
【限定できる要素】
・地域を限定する
・取扱商品を限定する
・アピールするサービスを限定する 等
・地域の限定 →「S区の方のためのヘアサロン」
・サービスの限定 →「ヘアカラー専門店」「大人のためのグレイカラー専門店」
・アピールするサービスの限定 →「喋りたくない人向けの美容院」 等
「競争が少ない市場」を狙っていくというのももちろん有効です。参入している企業が少ない市場はどこなのか、誰も見つけていない市場は無いか…「大きな市場」を狙わず、スキマ市場をもう一度探してみると、思いも寄らない発見があるかもしれません。
3.さらに狭いターゲティングを
「限定をする」という考え方の中でもうひとつ重視したいのが、ターゲット(顧客層)の限定です。大手のような「万人受け」をしようとする戦略が有効ではないのは、すでに上で解説しましたね。
中小企業が勝つには、ターゲット層を狭く、より狭く設定していく必要があります。
・性別 → 女性のみ 等
・年齢層 → 50代以上 等(特に年齢層はできるだけ狭く取るのが理想的)
・収入層 → 貧困層、富裕層、準富裕層等
・ライフスタイル
・趣味 等
例えば前述した「美容院」の例の場合、近年では「オタク向け美容室」が都心を中心にオープンして注目を集めています。「美容院で変身してみたいけど、行くのが怖い、行きにくい…」そんなアニメファン達をターゲットにすることで、テレビで紹介される程の人気店となっているのです。
「多くの人に売れたいから」と、ターゲットを無理に広く取るのを止めましょう。100人の中の一人にピッタリと合致するようなサービスをアピールできれば、その一人は「強力なファン」となってくれます。そしてあなたの会社に惜しみなく資金を投入する「リピーター」となったり、周囲に宣伝をする「インフルエンサー」ともなってくれることでしょう。
4.市場理解を深めよう
さて、ニッチな市場を見つけ出し、さらにニッチなターゲットに向けたマーケティングを行う上で重要なことはなんでしょうか?この回答には様々なものが考えられますが、欠かせないひとつとして「市場理解」が挙げられます。市場を理解しきっていない限り、ランチェスター戦略を使った「局地戦」も「ゲリラ戦」も行うことはできません。
例えば「ラーメン店の経営」で考えてみましょう。「ニッチな味のご当地ラーメンを考えだしたぞ!」と商品を生み出しても、それはもしかしたら既に隣の市で昨年から販売されているのと似たようなものかもしれませんよね?これではいくら「珍しい!」「当店限定!」とマーケティングしても、良好な反響は期待できないはずです。
「誰も行っていない市場」「誰も扱っていないニッチな商品・サービス」をアピールするには、まず「周囲が何を行っているか」「業界で何が扱われているのか」を見極める必要があります。流行しているものだけでなく、非流行のもの、30年前に流行したもの、各地域での人気… 様々なトレンドや嗜好を見た上で、「彼らとは違う路線」を見つけることが重要です。
おわりに
ランチェスターの法則について、またそれを礎としたランチェスター戦略についての基礎的な考え方や実践へのヒントはいかがだったでしょうか?戦う場所と戦い方を考えれば、少数の兵でも勝ち残ることはできる--ランチェスターは現代の私達にもそれを教えてくれます。
「勝つ明日」を掴み取るために、ぜひ今日からランチェスターの法則を踏まえた上での経営戦略・マーケティング戦略を導入してみましょう。